2022年4月21日木曜日

人は、報酬を与えられることを予告されると、やる気をなくす

 「人は、報酬を与えられることを予告されると、やる気をなくす」ということをお話しします。


ぼくは家庭の中で、ほんの一時期、お手伝い報酬制を導入したことがあります。
 

ひと月に一回、定期的にお小遣いをあげる代わりに、「お風呂を洗ったら、はいお駄賃」「洗濯物をたたんだら、はいお駄賃」、というように、仕事に対して対価を渡す、という仕組みです。

人は社会に出ると、仕事をすることで報酬が得られます。その縮小版を、家庭の中でささやかに実践しようとしたのです。

結果は、大失敗でした。


「お小遣いはいらないから、その仕事はしない」「その仕事をするなら、これくらいの報酬は必要だよ」というようなやり取りが発生したのです。

期待した効果より、はるかに悪い影響が表れたため、すぐに廃止しました。

 

困っている人がいれば、手を貸したい。周りに仕事で大変そうな人がいれば、少しでも力になりたい。それは人が自然に抱く感情であり、反応です。

お手伝いをすることは、人の自然な感情、自然な反応をきっかけとする、自発的な行為です。

ですが、金銭的な報酬を与えられることで、お手伝いが報酬を得るための「手段」に過ぎないと感じるようになったのです。

そうなると、人は報酬を得るために必要な、最小限度の仕事をするようになります。

 

物質的な報酬を与えられると、人はやる気をうしなってしまう。心理学では、これをアンダーマイニング効果と呼びます。1970年代に、心理学者デシ氏が実験で明らかにしました。

人は、自分の行動は自分で決めたいと望む「自己決定の欲求」。できないことをできるようになりたいと望む「有能への欲求」があります。


自身の行動で、この「自己決定感」や「有能感」が低くなると、アンダーマイニング効果が起こる、とデシ氏は述べています。 


お手伝いの本来の報酬は、「自己決定感」や「有能感」を得られることです。そしてそれこそが「目的」でした。

ですが、報酬をもらうことで、お手伝いが報酬を得るための「手段」になってしまったのです。

反省して、仕組みを改めました。
仕事の質を高めるのは、物質的な報酬ではない、という学びにもなりました。