メトロノームを鳴らして練習する時間を、取り入れましょう、というお話です。
これまで演奏する側は、運指に迷い、左右の指の動作の不一致に格闘。その一方、メトロノームは、そんな事情におかまいなく、リズムを刻み続けます。
自分がコントロールできる枠の外にあり、「私の主張を否定してくるもの」「私の理解をすり抜けるもの」です。
ぼくたちは、自身と周囲の音を聴き取ろうと集中に努めました。そうすると、メトロノームの音が、だんだんと聴こえてくるのです。
これまでも流れていたはずのクリック音が、より鮮明にヴィヴィッドに、つまりは視覚的確実性というのか、そんな性質をもって、聴こえてくるのです。自分自身の鳴らす音も、同じように聴こえてくるのです。
そのとき、演奏者は、<他者的存在>であるメトロノームと、ステージを共にしているかのような感覚を得ます。メトロノームが機械的で精確無比であるからこそ、こちらはその上で安心して遊ぶ自由と、自分自身をコントロールしている感覚を獲得します。
メトロノームを使う時間を少しでも取り入れるといいですよ、というお話を伝えたかったのです。